第068回国会 社会労働委員会 第7号 昭和四十七年四月十二日(水曜日)

食品衛生法の一部を改正する法律案

質疑抜粋

○田中寿美子君 それでは改正案の内容に少し入ってお尋ねしたいと思いますが、きょう十分やれない分は、各論はまた後にさせていただきます。
 一番最初に、安全性について疑念のある食品等の規制、こういうことで、これは一番重要なところでございます。食べるものが安全でなければならないという ことは一番大事なことで、その安全性について疑いのある食品の規制、少し立ち入ってここのところは伺いたいと思うのですが、四条第二号の「有毒な、若しく は有害な物質が含まれ、若しくは附着し、又はこれらの疑いがあるもの。」の販売の禁止ですね。この「疑いがあるもの。」というのはどういうふうな判断から なさいますか。どういう状況で……
○政府委員(信澤清君) 最初に私から今回このような改正をいたしました経緯につきまして、法律的な見地から御説明申し上げたいと思います。
 ただいまカネミのお話が出ておりますが、実はカネミの問題の起きましたときに、いろいろ疫学的な調査をやりましたところ、あのカネミライスオイルという ものが原因ではなかろうかという結論はかなり早く出たように承知をいたしております。問題は、いま大臣からもお話がございましたし、先生からも御指摘がご ざいましたように、原因物質が何であったかということがわからなかったわけであります。かなりおくれてその原因がPCBであるということがわかったわけで ございます。非常に行政の対応のしかたがおそいのではなかったかというおしかりを当時受けたことがございます。私どもはいまお読み上げになりましたよう に、現行法でも「有毒な、又は有害な物質が含まれ、又は附着しているもの。」、これは当然製造、販売を禁止しておるわけでございますが、今回その疑いがあ る場合でも、ちょうどいま例として申し上げましたとおり、疫学的調査によって、その原因物質は何であるかわからぬ、しかし何か有害な、有毒なものがあっ て、それが原因で中毒が起きているというような場合に、その製造販売等を禁止できるようにいたしたいということを前提にしまして、この改正をお願いしてい るわけでございます
 なお、その疑いがある場合に、どのような判断をすべきかという点は若干科学的な問題でございますので、局長のほうから答弁いたします。
○政府委員(浦田純一君) 先ほど経過の中でカネミ油症の原因を引き出して御説明したのでございますが、一般的に申しまして、そのように化学的な調査によりまして疑いが持てると客観的に認められるという場合でございます。
 御承知のように、食品衛生監視員につきましては、その資格要件としまして医師あるいは薬剤師、獣医師その他の専門技術を有することとなっております。し たがいまして、このような専門の職員によりまして、製造のメカニズムなどはこれは理解される能力は十分あると思いますが、こういった製造メカニズムなどか ら、この食品は有害のおそれがあるということは化学的に推定ができるものがあるわけでございます。そのものの構造式あるいは物理的、生物学的性状といった ようなことから推定がされるということができるわけでございます。こういったような化学的な知識、調査に基づいて疑いがあると、こういう意味でございまし て、カネミ油症の場合の例も、ちょっとそれと範囲が多少違いますが、カネミ油症の場合には、原因物質が特定されなかったけれども、カネミ米油がそのいろい ろな症状の原因であるということは、疫学的には十分に確かめられておりましたけれども、その原因物質が特定されなかったということでもって食品衛生法の発 動がむずかしかったわけでございます。そういったような疫学的な調査というのももちろん化学的調査の中に入るわけでございます。これと、先ほども申しまし た当然の専門職員による化学的知識から、化学的に疑いが推定できるといったような場合をさしているものでございます。
○田中寿美子君 そうしますと念を押すようですけれども、カネミライスオイルの場合は、あのライスオイルを買った人たちはみんな病気になっ たので、そのライスオイルの中に何が入っているのかを、その特定物質をきめるまでに至らなくても、ライスオイルを食べた者がみんな病気になった場合にはこ れを禁止することができると、こういうふうに解していいですか。
○政府委員(浦田純一君) 今回は、この改正によりましてそのように解していけるということでございます。
○田中寿美子君 中毒事件なんかが起こって、疫学的な検査で疑わしいものが出てきた場合というふうな説明が、こっちの要旨のほうについてい たと思うんですけれども、そうした中毒事件みたいなものが起こらなければだめですか。疑わしきものというのはどの辺まで拡大していくことができますか。
○政府委員(信澤清君) 今回、この改正をお願いいたしました直接の動機は、先ほど申し上げたようなカネミの問題等が原因でございますが、 御提案申し上げているように、改正されました場合には必ずしも疫学的な調査だけによって判断をするということではないと思います。たとえば、私も十分知識 がございませんが、ある製品を調べたところが有害物質があったと、当然それと同じロットナンバーのものは一々調べなくても入っているか、あるいは疑いがあ ると、こういうことでございますから、そういうような場合にも、この規定を設けますことによって的確な処理ができるのではなかろうか。
 なお先生、御参考までに申し上げますが、今回改正いたしますのは四条の二号でございますが、三号のほうにも同じような趣旨の規定が現にございます。読み 上げますと「病原微生物により汚染され、又はその疑があり、」と、こういう規定があるわけで、病原微生物の場合には、現在でもその疑いがある場合にはその 食品をとめると、こういうことになっているわけで、まあ、私考えまするに、昔の食中毒というのは病原性(*)のものが多かったんで、今日のように先ほど来いろい ろ御議論のありましたような環境汚染の問題等があまり問題にならなかったので、この二号のほうになかったんではなかろうかと、さような意味で今回改正いた しますれば一号、二号、三号合わせまして、疑わしき場合に食品の規制ができるとこのように考えております。

出典 http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/068/1200/06804121200007c.html

*「病原性」とは「病原性微生物」のことだと思われる。